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Tom Oliver

世界音痴 穂村弘世界音痴 穂村弘

世界音痴 穂村弘

明らかにペルソナじゃないけど頑張って読んでみた。 短歌について何もわからないし、調べても読めるものは一つも見つからなかった。それでもこの本はすごく面白かった。短歌と難しい日本語は通じなかったけど昔から「世界音痴」を体験してる人だから、なんとなく作者の気分がわかる。 ある部分は僕とあんまりにも似すぎて、それなりの恐怖感を感じた。このままじゃ自分も39歳になっても実家に住んでるだろうって。

読んで共感したポイントが山ほどあったけれど、特に心に響いた文のみに絞る。

(降順)

  1. 金額に合わせて小銭を揃えるという、その時間に耐えられないのである。面倒なのではない。店員を待たせている時間そのものが熱湯のような痛みを伴って感じられるのだ。そしてお釣りを受け取ると、ばっとコートのポケットに投げ込んでしまう。今度は受け取ったお釣りを財布に収納する時間に耐えられないのである。別に私の背後に客が並んでいるわけではない。せめてレシートだけでもその場で捨てたいのだが、それができない。私のポケットには財布の外側に常に大量の小銭とレシートが溢れていて気持ちが悪い。
  2. 表面が白っぽくなった大トロのパック(半額)を手にとって買おうか買うまいか、得か損か、まだまだうまいかもう腐りかけか、迷っているとき、不意に「ああっ」と叫びたくなる。「人生って、これで全部なのか」
  3. <親密さ>をそっくり残したままの、恋の終わりは苦しい。「たからもののシャツ、うちにあるよ」「うん」「送ろうか」「うん」「たからものなの?」。それは、いつもの二人の、変わりなく親密なやり取りでありながら、同時に恋の終わりの会話なのだ。
  4. 「今日こそ蜂蜜を買うぞ」「おー」と勇んで蜂蜜屋に直行する。「いらっしゃいませ」と迎えてくれた店員は人間の女性だった。棚に並んだ何種類もの蜂蜜の色は微妙に違う。中の一つに私が手を伸ばすと、「それは小心者向きでございません」と店員さんの声。驚いて瓶から手を放す。

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